ニューアース・キッチン
~台所で母なる地球の声を聴く~
6 自然治癒力を知る
ある日突然、私の手と足に湿疹の症状が現れました。
アトピーに似た症状です。ステロイド治療をしても毎回リバウンドが出ます。原因不明で、診断名も付け難い変な湿疹でした。毎日、かゆくて、痛くて、辛くてたまりません。そこから何年も続く、手足に包帯や湿布をぐるぐる巻いての毎日が始まりました。
山の麓の長屋に暮らし、座禅を組みに禅寺に通い、農業経済学の研究室に通い、有機農家さんの畑仕事を手伝うという自然志向な毎日を送っていました。
合鴨農法(ヒナのアイガモを田んぼに放って、草取り、虫取り、フンによる肥料効果を活かした米づくりの方法)で育った玄米ごはんを食べる習慣を始めていました。
大学院の修士論文を仕上げるため、資料探しに東京へ行ったとき泊めてもらった親友の家で、彼女が「マクロビオティック」料理のことを教えてくれました。専門の学校で教わっているというその料理は、玄米や雑穀のごはんを中心にして、旬の野菜と海藻だけを食べる「穀物菜食」の料理でした。地味だけど、なんともからだの細胞に染み入っていくような深い味わいでした。
その後、東京に住むようになってからも、私の湿疹は病院や治療方法を変えても一進一退を繰り返し、その頃になってようやく私も、これは対症療法ではどうにも解決しないようだ、と気がつきました。
エコなライフスタイルを目指し、そんな世界を夢見ていたけれど、足元の、自分のからだのエコロジーには無頓着だったことにはっと気づき、反省しました。
あらためて、食を整えることで、からだのなかから変えることを決め、マクロビオティックを勉強しはじめました。油物や糖分を控え、普段よりさらに粗食に徹しました。
デトックス効果(好転反応と呼ばれる)で症状がひどくなることもありました。あるとき、化膿した部分から雑菌が入ったのか、私の足は象のようにパンパンにふくれあがって、ついに立ったり座ったりすることもできなくなりました。病院では、薬を使いたくないなら壊死するかもよ、とあきれ顔で言われました。
正解はわからない、でもさらに強い薬をもらってまたいたちごっこが続くのはもううんざり。薬はもらわず病院を後にしました。
辛抱強くあるように、と祈るように自分に言い聞かせました。
民間に伝わる手当法で、里芋湿布というものがあります。里芋を擦って、患部に当て、数時間おきに取り替えるというケアを続けました。
1週間後、徐々にパンパンの足は静まってきました。それでも紫色に腫れ上がっていた大きな傷口は、そのまま化膿して固まりかけ、壊死に向かっているのかと思いました。
しかしよく見ると、その奥から、ピンク色をした、弱々しいながらも新しい皮膚が生まれている!そこから、私の皮膚は再生に向かっていきました。ひと皮むける、とはまったくこのことです!食べものを通してからだの中が変わってこそ、ひと皮むけたのだと思います。
からだはからだに入れるもの=飲み水や食べ物でできている、という当たり前。
もちろん環境、気持ちのあり方・・・いろんな要素で人は生きています。
でも直接的には、からだは食べ物が変化したものだ、ということを、私は自分のからだで体感しました。
からだにとって自然なもの、必要なものを食べること。不必要なものを食べないこと。
からだに不要なものを排出する力をもつこと。
マクロビオティック・穀物菜食から教わった、余計なものを削ぎ落したミニマルな食べかた。
その考え方は今も、私が普段献立やレシピを考えるうえで、大切な羅針盤の役を果たしてくれます。人生で無駄な体験はひとつもない、というけれど、からだの不調からこうして自然食の仕事に導かれたことはたしかです。
私は自由奔放なベジ料理を目指していますが、自然に聴く、体という自然に聴く、というぶれない軸があって、自由奔放は活きるのだと思います。