日々のノート

植物料理研究家YOSHIVEGGIE(ヨシベジ)のブログへようこそ。自然のリズムと同期する生き方。セルフラブから始まる地球平和。ノート術。生きづらさをギフトに変える心理学。食べもの、暮らし、マインドフルネス。

ニューアース・キッチン 11 植物の動物化

 

11 植物の動物化

 

「え、これ本当にお肉使ってないの?」

そう驚きつつ、嬉しそうに食べてもらえたらこちらも、よっし、とガッツポーズ。

生まれてこのかたベジタリアンという人でも、「お肉っぽいもの」は喜ばれることが多いです。

 

そこで、その「お肉っぽさ」の正体とその魅力とはなんなのか、あらためて分析してみることにしましょう。

 

お肉の弾力や、噛み応えには、野性本能的な食欲が刺激されます。

なによりも、肉質の主なものは、タンパク質成分。強いうまみはアミノ酸ですが、これもタンパク質。

ヨーロッパには血のソーセージ、アジア圏で血のチーズなどがありますが、血液料理もやはりタンパク質を凝固させてつくります。

 

さらに匂い。煮えるとき、焼け焦げるときの匂いで、人はすでにそこにあるうま味を想起します。

コラーゲンがたっぷりの、ゼラチン質の部分。煮込みをしたときに、冷めたら煮こごりになっている部分です。これも、タンパク質が主成分。食べなくても、照りやジューシーさを見ただけで、「おっ」と思うでしょう。

 

ときどき感じるスジっぽさ、これもお肉精神を脳に伝えてくれます。臓器やスジには、噛み応えがあり、歯で引きちぎるときの抵抗感があり、パテやソーセージをつくったときに、お肉を食べているぞという信号になりますよね。

 

そして、脂質もお肉のもうひとつの要素です。

皮目が、パリっ、かりっといい食感に焼かれるとき、これも脂やコラーゲンがうまく溶け出てくれるから。

霜降り肉や、フォアグラの口溶けのやわらかさは、口のなかで融点を超えた脂の仕業。

 

料理写真を撮るとき、「シズル感」というものを大切にするということをカメラマンの友人から教わりました。見ていてよだれが出そうになるような訴求力です。みずみずしさ、フレッシュさ、ジューシーさ、照り、ぐつぐつと湯気をたて今まさに炊きあがった様子。臨場感がある写真は、即、食欲にもつながります。そう、脂はシズル感と直結します。

 

植物材料でお肉のようなお料理を再現するときには、これらのお肉がもつ要素や、お肉からくる感覚をいくつも取り入れてつくります。私はこれを「植物の動物化と呼んでいます。

このためには、「植物の力」を知っていることが大切です。

 

タンパク質が豊富なお豆、これはベジタリアンでなくたって納得です。

中国の精進である普茶料理では、湯葉や豆腐のみならず、大豆製品が、食感も見た目もまるで本物のお肉や魚介類のようにして、活躍します。

 

どっしりとした食べ応えの役目は、穀物が得意です。玄米、雑穀、挽き割り小麦、粉類を入れると、重みとともに、粘りも加わるので、ハンバーグなどつなぎを必要とする料理にはとてもいい役目を果たしてくれます。

 

森のキノコは土臭い香り、そしてちょっと筋肉質のある歯ごたえ。強烈なうま味をもっています。さすが菌類、単純に植物呼ばわりできない中間的存在。その分、味が動物にも近いのでしょうか。

 

ごぼうもコクとうま味は得意です。土臭さはお肉料理にも通じるところがあり、実際お肉と炊き合わせるととても相性がいいのもうなずけます。臭みで臭みを封じる、いやむしろ高めてくれます。相乗効果がありますね。繊維質が多いため噛み応えがあり、食べる楽しみにつながります。色の濃さもお肉に似たポイントです。

 

にんにく、しょうが、たまねぎ、人参、セロリなどの香味野菜は、うま味も豊かであるばかりか、お肉の匂い消しにも使われる好パートナー。実際、大豆たんぱく製品、麩など、植物性のタンパク質を使うときでも、下味として香味野菜を使うと、たんぱく特有の臭みが和らぎます。

香味野菜が入ると、お肉料理を彷彿とさせる香りを得られます。焼き肉のタレを使えば、野菜炒めのはずが焼き肉定食の匂い。そのタレにはにんにく、しょうがのほか、さまざまな野菜・果物、調味料、ハーブ・スパイスが入っています。お肉の味を引き立ててくれる材料がいろいろと使われているのを発見できます。

 

脂の代わりなら、良質の植物油を使うことができます。コラーゲンのぷるぷる具合は、寒天、葛、その他でんぷんで再現することができます。かりっとした食感は、小麦粉やパン粉、米粉などの衣をつけて焼く、揚げるなどにするといいですね。照りはうまみも豊富な調味料である、みりんやお酒、醤油、ワイン、果汁、そしてそこから引き出される糖分からも実現されます。

 

動物性食品の「うま味」が、満足感のカギのひとつなのだということがわかると、ベジ料理でも素材のうま味を引き出すことが、食べて満足、の料理をつくる秘訣だということもわかってきます。うま味を引き出す料理術は、この章の後半で伝えたいと思います。

 

ただし、お肉料理オンパレードのごちそうでは疲れてしまうのと同じで、うま味抜群の「動物化」した野菜料理ばっかりになると、やはり飽きがきてしまいます。

そこで、コクやうま味のあるものがあれば、足さない・引かない・引き出さない、そのものの美味しさを味わうシンプル料理がある、といったように、重さと軽さのメリハリをつけてあげると、テーブルの上はいいバランスになります。

 

このお肉の分析と「植物の動物化」の手法を、卵、魚など他の動物性食品にも応用して、新レシピを発明してみていただけたらと思います。

 

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