ニューアース・キッチン
~台所で母なる地球の声を聴く~
8 自然が教えてくれる
質問を投げかける。母なる地球に、聞く。
すると、どこからともなくひょこっとメッセージがやってくる、ということがあります。
私の場合聞こえてくるのは、大抵、原っぱとか山の小道を歩いているとき。そして次にいく道を決めたくて、答えが欲しいと思っているとき。いつもなぜか、なんとも心地のいいそよ風に乗って、今必要としていた言葉がやってくると、それはすっーと、からだの腑に落ちていきます。3秒前までのあの迷いはなんだったんだろうと不思議になるくらい、心は決まり、落ち着きます。
おもしろいことには、その声が私に届くときは周りの環境も整っているもの。機が熟す、という言葉の通り、自分にも準備ができ、周りでも準備完了。
直感は、自然のリズムと呼応しているのでしょうね。やっぱり、ヒトは、生き物です。
仲間がいる長崎を離れて東京に行くことにしたときも、大好きな自然食を仕事にすることにしたときも、山や、緑道でふと聞こえてくる声に従いました。
こんな経験もありました。
2001年の頃、自然食や飲食の仕事を経験しながら、私は学生の頃から利用していた埼玉の有機食品輸入会社が始めようとしていたカフェを、その立ち上げから携わることになりました。途中、他店での修行とアジア放浪のため抜けたものの、数年間、大好きなオーガニック食材に囲まれて、シェフとしてカフェのメニューづくりと運営に取り組みました。
ベジタリアン料理の可能性をさらに独自に追求し発信するために、そのうち独立しよう、という気持ちはありました。
その前に、ベジ料理そして食文化そのものへの理解をもっと深めたいと思っていました。会社を辞めたらしばらくの間は、ヨーロッパに出ようと計画を立てました。
身の回りの環境を整え、アパートの引き渡し日も迫り、インターネットでリサーチをしていた私に、そよ風は開け放っていた窓から部屋の中に入ってきて、「日本にいて、自分のベースをつくりなさい」と語りかけてきました。メッセージはやけに断定的です。でも、瞬間的に納得していました。とはいえ突然の出来事だったので、すぐに私のもっとも信頼する友人に電話して、「こんなことがあったのだけど、どう思う?」と意見を求めました。
答えは、意外なくらいすんなりで、「ヨシ、それはあなたにとってとすごくいいと思うよ」と、心からその方向転換を祝福してくれました。受話器を置いて、私はすぐに引っ越し先をインターネット検索し始めました。数分前まで、滞在先となるフランスの有機農家のリストとにらめっこしていたのに、です!
1時間も経たないうちに、私が行ったことも聞いたこともない地域の、ある1軒のマンションの見取り図が、ひどく気になりました。
写真もないのに、すでにそこで料理を教え、庭を広げて植物を育てるイメージが見えました。すぐに不動産屋に連絡して見せてもらい、数日内には契約、引っ越しの日取りも決まりました。引っ越しには、友人と、初めて会う友人の友人がなぜか手伝いたいと申し出てくれ車まで出してくれて、それで荷物を運ぶことになりました。おまけに、仕事で日本に来ていたアメリカ人のシェフ仲間が、たまたまその日はオフだから、と手伝いに来てくれました。
突然の進路変更から引っ越しまで、あっという間。それは、内なる声に従っただけの、完ぺきにできた綱渡りでした。
東京郊外のちょっと不便な場所でしたが、地元農家さんとのつながりや国立との縁も生まれました。
人前で話をしたり、教えたりするのは苦手だったので、料理教室にはこれまで食指が動かなかったのに、あの風が吹いてきた直後、なんだかできるような気がして、料理教室を始め、ベジ料理研究家、と名乗ることになりました。
あのとき日本を出ていたら、カフェ・トピナンブールにはつながっていかず、のちにパートナーにも巡り会えなかったかもしれないと思うと、綱渡りした甲斐はありました。
もっとも、選択の余地なく綱の上に身を任せただけともいえますが。